2台の異端車
先日、関東にある、とある大型サーキットから仕事を終えて帰京する際に、ある高速道路に乗った。比較的空いているこの道路では大抵の車の平均的なクルージングスピードは遅めの車で110km/hが約30%、130km/h程度が約50%、それ以上の140km/h程度が15%、そしてそれ以上の速度の車が残り5%程度だ。
昔、25年ほど前に当時の西ドイツのアウトバーンを走った時の回りのスピードレンジが丁度これに似ていた。
そして数年前にドイツでまたアウトバーンを走ったが、この時は更に全体のスピードレンジが上がり、30%が130km/h程度、50%が160km/h程度、15%が180km/h程度、そしてオーバー200km/h程度が残り5%程度といった雰囲気。
現代のタイヤと車、ブレーキ性能の向上でこの速度が自然に出来上がっているものだ。
さて、さる高速道路に乗って自然に”安全速度”で走ろうとして前の車の集団に追いついたら、2〜3台前に2台のパトロールカーが走っている。
それぞれのパトカーには一人づつの警官がドライブしており、察するに交通取り締まりの任務ではなさそうだ。どうやらパトカーを搬送中の風情だとひと目で判った。が、どうも、誰も追い越すだけの”勇気”はない。勿論、私とてそうだ。
テイルツーノーズ、サイドバイサイドの接近走行
その高速道路の制限速度は100km/h。パトカーはマナーよく左の走行車線を私の車のメーター読みで110km/h程度で走行している。大抵のメーターはこの付近は速度表示が甘いので、恐らく、正確に100km/h程度で走行しているのだろう。と、後方からどんどん車が接近して来る。事情を知らないそれらの高速集団は当然左側の走行車線を走る私を、追い越し車線で抜いて行く。が、パトカーを発見するやブレーキング!そして抜くにも抜けず、まことに”困った”と、言う雰囲気でスローダウンして走行。こうして、2台のパトカーを先頭に100km/hの”スロー走行状態”のコンボイ(集団)が出来てしまったのだ。
その後、次から次に車が後方から接近して来る。これまた事情を知らない車が追い越し車線の車に”もたもたするな、そこどけ!”と接近してプレッシャーを掛ける。
すると、それらの車はそれに嫌気がさして、無理矢理左の走行車線に割り込んで来る。
やがて2車線から3車線になるや、事態は更に無秩序で危険な状態になった。パトカー先導のコンボイに追いついた更に事情を知らない車は中央の走行車線と追い越し車線に車が詰まっているので、今度は左端の走行車線を使って先頭に出て、このコンボイを抜き去ろうとする。と、先頭近くに行くや、パトカーを発見し、急ブレーキでそこに留まる。
今度は3列のコンボイとなった。しかも速度が100km/hの”スロー走行”なので、全員危機感がない。つまり相対速度は互いにほとんど”ゼロ”に等しいので、テイルツーノーズ、サイドバイサイド、前後の車間距離も10m以内になってもほとんど危険感がないので、文字通りの密集体制。その中で後方から更に事情を知らない車や、知っている車も危機感がないので、レーンチェンジをしようとするから、無理な割り込みが始まり非常に危険な状態になっていた。
130km/h以上だとスムーズ。
約30kmの区間はこうした危険な集団走行が出来上がっていたが、やがてパトカーが高速道路を降りるや、集団はあっと言う間に霧散し、安全な状態に戻った。100km/hの”スロー走行”から一斉に速度を上げて”正常”なクルージング速度になるや、密集だった集団はたちまちばらばらになり、各自が自分の能力と車の性能に応じた”安全速度”でクルージングを始めたからだ。
流石に、100km/h以上の130からさらに上だと、あのサイドバイサイド、前後の車間距離の狭い密集体制では本能的に危険を感じ誰も接近走行はしない。
常識的な”安全車間距離”で走る。”スロー走行”とは違い、適度な緊張感と危機感があるために車間距離も正常に取り、またより安全な気配りで走るためだ。
どちらが安全?
今回のこの体験で、改めて100km/hの”スロー走行”と130〜140km/h程度の”適正走行”とがどちらが本当に安全なのか考え直す時に来ているのではと思った。 確かに100km/hより140km/hの方が運動するエネルギーは大きい。一度事故を起こしたら、その破壊力、ダメージは大きいのは確かだ。だが、事故を起こす率は、今回の例でも見られるように、100km/h程度の”スローに感じる速度”ではドライバーにあまりにもゆとりがあるために”油断”につながりやすい。例えばモータースポーツでも似ている。モナコやマカオGPのコースは左右にエスケープゾーンもなく、一旦ミスすると即クラッシュ!と言う非常に危険なコースで戦われる。では、このようなコースでは事故多発で毎回死人が出るかと言うとそうではない。サーキットの中でも、高速コーナリングの非常にリスクのあるコーナーが事故が多いかと言うと実はそうではない。つまり、危険であればある程ドライバーは慎重に走り、注意もするので事故は少なく、案外安全な油断しそうなコースやコーナーで事故が多い。 これと同じように、今や、高速道路の道幅が広く、対向車もなく、十字路もない安全な道路を、現在の安定した車で走ることは”何でもない”ことになっていて、つい”油断”が起きてしまうのだ。
それが証拠に、後ろから追い越しを掛けようと迫っていても平気で追い越し車線に飛び出して来る車の何と多いことか。これで事故が起きているのだ。油断から事故が多発する日本と一発は大きいが事故が少ないドイツ。
緊張のアウトバーン
アウトバーンでは高速車はオーバー200km/hで疾走している。当然その速度で走っているドライバーは慎重になるが、走行車線を走る車も同様緊張している。不用意に追い越し車線に出たら高速車に簡単に追突され大事故につながるからだ。また、高速車が背後に来たら直に道を譲るのも高速道路での緊張感があるからこそ行うマナーだ。 が、日本では平気でのんびりと追い越し車線を走る。背後から速い車が来ても譲らない。左側追い越しを平気でする。急に車線を変える。
オーバー200km/hでクルージングするものの、その他のマナーをきちんと守るアウトバーンと、80km/hや100km/hと低速ながら、その他のマナーは全く守らない無法地帯の日本の高速道路と一体どっちが安全なのだろうか? 道路行政にはもっとドライバーの心理を考察した人間工学的な配慮が必要ではないたろうか?
うさぎと亀の日本古来の童話を思い出した。低速で走らせ、安全だと油断して結局事故が多い日本の道路と、高速で走らせ、充分に危険だと認識させながら、それゆえ安全運転するドイツのアウトバーン。日本はうさぎなのだろうか。そう言えば、昔、”うさぎ小屋”といわれたことがあったっけ!(続く)
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