<メカニズム解説>
富士重工は、基幹モデルのレガシィをフルモデルチェンジした。3ナンバーサイズとなったボディは完全に新開発で、エンジン、トランスミッション、サスペンションなども変更された。レガシィの特徴であるシンメトリー4WDシステムはそのままに、走り、安全、環境などの性能向上に加え、軽量化を優先して開発された。ここでは、車両各部に投入された新しい技術を中心に解説する。
●ボディの軽量化と衝突安全の向上
 |
 |
| ツーリングワゴン |
B4 |
ボディサイズの拡大は、ワゴンとセダンで異なる。全長はワゴンが従来型と同じ、セダンが従来型より30mmの長く、全高はワゴンが従来型より15mm低く、セダンが従来型より15mm高く、全幅は両車とも35mm広く、ホイールベースは共に20mm延長された。全幅の拡大が目立つが、それは衝突安全と取り回し性の向上のためだ。
 |
| 環状力骨 |
衝突安全の向上は、ボディ骨格の大断面化、ストレート化、高強度材、テーラードブランクなどの採用による。ボディ骨格の大断面化とストレート化は前後のサイドメンバーで実施され、正面衝突と後面衝突時の衝撃吸収性を高めている。後面衝突については、米国で実施予定の80kmオフセット衝突にも対応している。
テーラードブランクは高強度材と組み合わせて、ピラー類、サイドシル、フロアトンネル、クロスメンバーなどに採用され、ボディ重量は50kgも軽量化された。テーラードブランクは、必要に応じて強度と厚さの異なる鋼板を突合せ溶接してプレス成型する製法であり、強度と軽量化を両立できる。高強度材とは引張り強さが590メガパスカル(60kg/平方mm)の高張力鋼であり、その使用量は重量でボディ全体の50%に達し、トップレベルの使用量という。
ボディ骨格の大断面化によってボディ剛性が向上したが、サスペンション取付部の局部剛性にも留意している。例えば、前後のサスペンションメンバーを取り付けるカラーが、タイヤからの入力で倒れないように、サイドメンバーの中で上下両持ちの構造となった。
 |
| 軽量素材ボディ |
ボディの軽量化は、アルミの採用拡大でも実施された。アルミは、フロントのバンパービーム、エンジンフード、リアゲート、ステアリングサポートなどに採用され、エンジンフードで8kg、リアゲートで7kg軽量化している。ちなみに、ステアリングサポートは肉厚が一定でない卵型断面の押出し材であり、凝った設計である。ボディのアルミ化は主としてその前後端で実施され、車体のヨー慣性モーメントも低減している。
アルミのエンジンフードは後述するエンジンのローマウント化と共に、歩行者保護対策でもある。アルミのエンジンフードとその下の空間(65mm以上)は、歩行者の頭部に対する衝撃を緩和する。フロントフェンダーやワイパーにも歩行者保護対策が盛り込まれ、左右のフロントフェンダー内の骨格の位置が下げられ、ワイパーは脱落式となった。
●サスペンションとステアリングとブレーキ
サスペンション形式は従来型と同じで、フロントがストラット式、リアがマルチリンク式だが、全幅の拡大と共に前後のトレッドが25mmから30mm拡大され、ジオメトリーの変更、剛性の向上、軽量化、ダンパーのバルブの変更などが実施された。
 |
フロント サスペンション |
フロントではキャスター角が3度から6度に変更され、旋回時の外輪のネガティブキャンバーを増大した。これにより外輪のグリップ力が増えてアンダーステアを低減できる。キャスター角の増大が、どうして旋回時の外輪のネガティブキャンバーを増やすかというと、キングピンが立体的に傾斜しているからだ。前輪がキングピンを軸に向きを変える時、前輪中心面に対して直角な方向のキングピンの傾きが変化し、外輪側ではキングピンの傾きが増加してネガティブキャンバーが大きくなるのだ。
フロントではストラットの剛性も向上した。ストラットのガイドベアリングの上下スタンスを10%拡大すると共に、ガイドチューブとナックルの結合部を溶接で強化した。倒立ダンパーのストラット式はキャンバー剛性が元々高いが、それをさらに高めるため、この対策を加えた。レースカーに近いキャンバー剛性となったはずだ。
第3世代のハブユニットの採用によっても、キャンバー剛性を高めた。このハブユニットは、ハブの軸部がベアリングのインナーレースを兼ねる構造である。この一体化で剛性が高くなるが、ベアリングのみの交換はできない。ちなみに、実用化はまだだが、第4世代のハブユニットも開発されている。それは、ハブユニットにドライブシャフトを圧入後かしめる方式でさらに軽量となるが、ドライブシャフトも交換できなくなる。
 |
ステアリング ギアボックス |
この高剛性のフロントサスペンションを生かすため、ステアリング装置も変更された。ステアリングギアボックスのマウント方法をキャノンマウント(ギアボックスケースから生えた耳にブッシュを圧入し、ボルトで固定する方式)に変更し、ラックの外径を23mmから26mmに太くした。前者は操舵時の微小なステアリングギアボックスの横移動を押さえ、後者はラックの曲がりを低減する。また、油圧パワーステアリングの油圧回路に絞り弁が新たに設けられ、キックバックを低減した。
 |
| リアサスペンション |
リアサスペンションでは、アルミアッパーアームとターボ車専用のアルミ製ホイールキャリアが採用された。マルチリンク式のホイールキャリアはトレーリングアームと一体化した大きな部品であり、アルミ化による軽量化は7kgと大きい。これは、バネ下重量が増える18インチホイールに対応した設定である。
 |
| ビルシュタインダンパー |
ダンパーのバルブ変更は、微低速域を制御するバルブの変更である。従来のビルシュタインダンパーは一個のオリフィスで微低速域の減衰力を発生させており、伸びと縮みの減衰力が上下対称であった。新型ダンパーでは縮み側専用のオリフィスが新設され、伸びと縮みの減衰力を最適化した。
低重心化と歩行者保護のためにエンジン搭載位置が下げられ、ターボ車にはリニアモーションマウントが新設された。エンジン搭載位置は前端で22mm、フロントデフ部で10mm下がり、元々低重心の水平対向エンジン車がさらに低重心になると共に、フードとエンジン間の空間を拡大した。リニアモーションマウントはエンジンのロールを押さえるマウントであり、エンジンの右後方でロールを制限する。
ブレーキはもちろん前後ディスクブレーキであり、従来車に対して1インチずつディスク径を拡大した。中でも、ターボ車ではフロントディスクの厚さは30mmとなり、十分な熱容量を確保した。これに加えて、全車にタイロッド付き真空ブースターが採用され、ブレーキペダルの無効ストロークを低減した。タイロットはブースターの前後の壁を繋ぎ、前後方向の変形を防止する。
●エンジン
新型レガシィの水平対向4気筒エンジンは、2LのDOHCターボ、2LのDOHC、2LのSOHCの3機種である。全てのエンジンは、部品の80%以上を変更するほどの大改修を受け、出力性能と排ガス性能を向上した。全エンジンに共通する変更は、4→2→1の等長等爆排気マニフォールド、電子制御スロットル、鉄鋳込みジャーナル等だ。
等長等爆排気マニフォールドは、出力性能を向上し、エキゾーストサウンドを改善する。従来エンジンでは、左右バンクの2気筒ずつを集合していたため、等長であっても等爆にはならず、集合部で排気が干渉していた。そこで、左右バンクの1気筒ずつを一旦集合し、その後で2本を集合するレイアウトに変更された。
このためには、排気管をオイルパンの下側に通す必要があり、四角いオイルパンの大半を削り取る必要があった。だが、オイルパンの形状変更は潤滑性能に大きな影響を与える。そこで、設計変更したオイルパンにアクリル樹脂の窓を設け、それを通してビデオカメラで内部のオイルの動きを、走行中に観察する実験が行われた。これにより、バッフルプレートの形状を最適化し、潤滑性能を確保した。
 |
鉄鋳込み ジャーナル |
鉄鋳込みジャーナルは、シリンダーブロックの5番ジャーナルに採用された。これは5番ジャーナルの熱膨張を防止し、クランクシャフトとの隙間を一定に保つことで、主に3000回転以上で騒音を低減する。鋳込まれるインサートは鉄の粉末焼結品であり、これをシリンダーブロックに鋳込む前にアルミで鋳ぐるむ。粉末焼結品は微細な孔があり、そこにアルミ合金が浸透することで強固に結合する。今、パテント申請中のという。
 |
 |
| DOHCターボエンジン |
チタンタービン |
DOHCターボエンジンの変更点は、2ステージ・ツインターボに替わる、シングルのツインスクロール・チタンターボである。この変更によってトルクの谷が無くなる一方で、最高出力はMT車280PS、AT車260PSと変化はない。シングルターボとするとタービンの慣性モーメントが増大してターボラグも大きくなるが、チタン合金のタービンを採用してそれを防止し、ツインスクロールによってパルスの荒い排気をタービンにぶつける。ちなみに、チタンタービンは大同特殊鋼の独自技術だ。
トルク特性の改善には、吸気側と排気側の両方に採用された可変バルブタイミングと9.5の高圧縮比も効果を上げている。可変バルブタイミングは広い回転域で体積効率を向上し、高い圧縮比は熱効率を向上する。なお、高圧縮比によるノッキング防止のため、点火プラグ回りの冷却を強化し、メカニカルオクタン価を高めている。
 |
| DOHCエンジン |
DOHCエンジンでは、前記の等長等爆排気マニフォールドと共に、吸気側の可変バルブタイミング機構、点火順序に合せた形状の吸気マニフォールド、排気抵抗の少ない大容量マフラー(16L×2)などがフラットトルクを実現し、最高出力も向上した。最高出力は、MT用が190PS、AT用が180PSである。
●トランスミッションと4WDシステム
トランスミッションは、DOHCターボエンジンに5速ATと5速MTが、DOHCエンジンに4速ATと5速MTが、SOHCエンジンには4速ATが組合わされた。この内、5速ATは新開発である。
全ATで共通するのは、アダプティブ制御の進化とエコモードの設定だ。アダプティブ制御とはドライビングスタイルや走行状態に応じて、コントローラーが最適なギア段を選ぶ制御であり、基本制御の他に急加速制御、急スロットルオフ制御、ブレーキ制御、コーナーリング制御などがある。急加速時に積極的にシフトダウンし、急スロットルオフ時にはエンジンブレーキを強めるためにシフトアップを中止し、ブレーキ時にはシフトダウンのタイミングを早めると共に再加速に備え、コーナーリング時には不要なシフトアップを抑制する。
エコモードは燃費優先のプログラムであり、エコモードスイッチをオンにすると変速とロックアップを燃費優先に制御する。また、エコモード中でも急加速すると一時的にエコモードを解除し、加速性能を優先する。
新開発の5速ATはクロスレシオが特徴である。一部車種にはステアリング上にシフトスイッチが設けられ、Dレンジのままでも一時的にマニュアルシフトができる。また、ATFウォーマーを採用し、冷間始動直後の燃費を低減した。ATFの温度上昇は冷却水の温度上昇より遅く、冷却水でATFを暖めることで、冷間始動直後の燃費が低減する。
4WDシステムは従来型と同じ、ターボAT車用のVTD−AWD、DOHCおよびSOHC・AT車用のアクティブトルクスプリットAWD、MT車用のビスカスLSD付きセンターデフAWDの3種類だ。なお今回から、スバルの4WDはAWD(オール・ホイール・ドライブ)と名前が変更された。
VTD−AWDは、45対55の不等トルク配分デフに多板クラッチの差動制限機構を組み合わせたセンターデフを用いる。多板クラッチを押付ける油圧(ATの油圧を利用)を電子制御し、基本のトルク配分から前後リジッド4WDまで、差動制限が連続的に変化する。ちなみに、従来型では35対65の前後トルク配分であった。
アクティブトルクスプリットAWDは、多板クラッチ形式のトランスファーを用いる4WDシステムである。コーナーリング時には多板クラッチのスリップによって、前後輪の回転差を吸収し、滑りやすい路面では多板クラッチを契合する。昔はMP(マルチプレート)4WDと呼ばれたが、多板クラッチの押付け力を電子制御するようになって、名前がアクティブトルクスプリット4WDに変わった。
ビスカスLSD付きセンターデフAWDは、50対50の等トルク配分デフにビスカス式差動制限機構を組み合わせたセンターデフを用いる。MTではATの制御油圧を利用できず、回転差に応じて差動制限トルクを発生するビスカス式差動制限機構を使っている。
新型レガシィは、以上のように軽量化を最重要課題として開発された。水平対向エンジンを縦置きするレガシィは、4WD車としては軽量(4WD化に伴う重量増は70kg程度)なのが特徴であり、ボディの衝突安全性と剛性を高めつつ100kgの軽量化を達成し、その特徴をさらに進化させた新型車である。